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Vol.2 地域に開かれたホスピスと在宅診療をめざして

医療法人社団楓の風 理事長 在宅療養支援クリニックかえでの風 院長 宮木大(2015年9月)

プロフィール

宮木大

宮木大(Miyaki Masaru MD, MBA)

  • 2012年~医療法人社団楓の風理事長 在宅療養支援クリニックかえでの風 院長
  • 2012年立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修了(経営管理学修士)
  • 2001年慶応大学医学部救急医学入職
  • 2001年鹿児島大学医学部 卒業
はじめに

「人と人がつなぐ医療のかたち」Medi Legato 第2回のコラムは、医療法人社団楓の風 理事長 在宅療養支援クリニックかえでの風 院長 宮木大先生(MD,MBA)のご登壇です。
宮木先生は、私のMBAスクール時代の同期であり、Medi Legatoのアドバイザリーボードとしても、折にふれて助言を頂いています。
今年4月からは、京都大学大学院医学研究科社会医学系専攻で、健康管理学・健康情報学の研究もなさっています。最期の時を自宅で過ごしたいという患者さんとご家族の想いを、医療者がどのように共有し、支援していくか。患者さんの想いを引き出し尊重すること、Shared Decision Makingの取り組みについても、お話し頂きました。

Medi Legato 代表取締役 CEO 廣瀬園子

インタビュー

-ホスピスや在宅診療の医師をめざした理由を教えてください。

鹿児島大学の医学部を卒業後、慶応大学病院で救急医療に携わっていましたが、自分自身のブラシュアップの為に、内科医を目指しました。赴任先の川崎市立川崎病院で、マネジメントやリーダーシップの重要性を感じるようになり、勤務をしながらMBAスクールに通うことにしました。日本の医療や医療制度の変革を目指したいという想いもありました。そんな中、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の同期で、デイ・サービスと訪問介護の事業を運営するNPO法人 楓の風の小室貴之理事長に出会いました。彼の「一緒に社会を変えないか」という言葉もあり、在宅のホスピスに取り組むことになりました。

地域に開かれたホスピスと在宅診療をめざして

-地域の病院との連携の課題について、どうお考えでしょうか。

私たち「かえでの風」では現在、在宅医療を希望する患者さんを年間210人ほど受け入れています。在宅での看取りは、月に20人くらいでしょうか。

戦前は自宅で死を迎えることは日常の生活の出来事でしたが、昨今は病院で死を迎えることが多くなっていた為か、病院の医療従事者の中には、「死期が近く、ガンの痛みもある患者さんを自宅に帰すのは可哀想」という意見があることは事実です。
私も同じ医療者として、最期まで治療とケアに全力を尽くしたいという気持ちは理解できます。ただ、最期は自宅で過ごしたいという意思のある患者さんとご家族の想いを受けとめて、サポートする役割も重要であると考えています。
私たち在宅医療に携わる医療者は、地域病院主催の勉強会にも積極的に参加し、お互いが顔を合わせ、コミュニケーションを取ることを大事にしています。「この医師や看護師であれば安心して任せられる」という信頼関係の構築が不可欠である為です。医師ではなく、事務担当者による連絡調整だけで済ますことは出来ないと考えています。

-医師としての今後の夢や目標をお聞かせください。

「コミュニティ・オープンド・ホスピス」を創りたいと考えています。
社会から隔絶されたホスピスではなく、亡くなる最期まで、患者さんとご家族がコミュニティの一員であり続けることのできる、「開かれたホスピス」を目指したいと思います。

メッセージ

近年では、がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎は日本人の死因の多くを占めており、大きな変化はありません。1975年近くまでは自宅で看取られる方が半数以上であり、「病院で最期を迎える」ことは、ここ最近の傾向にすぎません。
我が国は「高齢化社会」を迎え、同時に「多死社会」を迎えています。現在の年間死亡者数は約12万人ですが、2025年には40万人になると推測され、看取り先の確保が困難であることから必然的に自宅での看取り数が増加します。
国は住まい・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの実現を計画し、医療も在宅医療の充実、在宅介護の充実を明文化しています。平成20年の厚生労働省「終末期医療に関する調査」によると、国民も6割以上が終末期は自宅で療養したいと考えていて、在宅医療のニーズが高まると思われます。一方で、家族は医療機関で療養してほしいと考えており、患者本人と家族との間に考え方の相違があります。その主な理由として「急変した際の対応に不安がある」ことと「介護する家族に負担がかかる」ことの2点が挙げられ、どれだけそれらの心配に対応し解消することができるかが在宅医療を行う上で必要なことです。在宅医療を行うために、病院、訪問診療クリニック、訪問看護ステーション、訪問調剤薬局などは連携を組み、必要な際に各々訪問し問題を解決しています。

WHOの定義する全人的な痛みとして身体的苦痛(身体症状)、精神的苦痛(不安、抑うつ)、社会的苦痛(人生の意味)、心理的苦痛(仕事、経済、家庭)が含まれますが、医師が積極的にイニシアチブをとって解決することが出来る痛みは限られています。
そこで、問題解決のためには「医師が導く」のではなく、「共に考え、解決方法を見つける」ことが必要です。患者は病気で不幸になった、可哀そうな存在になった、といった保護的存在、社会的弱者ではなく、身近な死の存在から、日常のありがたみや喜びを痛感し、生きることの大切さを痛いほど知っている主体的存在であり社会的強者だ、と捉えるパラダイムシフトを行うことが重要です。我々医療従事者は、まず患者・家族が考える「この様に暮らしたい」という思いを支える存在である、と考えても良いのではないでしょうか。
病院であっても、自宅であっても「安心」を手に入れることは難しいですが、全ての人が“死”を通して、より“生きる”ことの意味を考え、その過程で大きく、力強くなれるのではないかと思います。

日本の医療業界では「Informed Concent」といった考え方が主流を占めています。日本語では「説明と同意」と説明されることが多いですが、よく考えると、医療従事者が決定した治療方針を説明し、それに対して同意するといったことであり、そこに患者家族の意思が介在する余地がありません。どうしても医療従事者が主、患者家族が従といったヒエラルキーが存在してしまいます。しかし、患者家族が今まで築き上げてきた人生、その上でこれから過ごそうとしていく未来、それに自分の意思が入らないまま決まっていくことは良いことしょうか。勿論、違います。
そこで、最近は「Shared decision making」といった考え方が欧米で普及しつつあります。
岐阜大学医学部医学教育開発センターの藤崎和彦先生によると、医療者側の持っている医学的な情報について、どういう状況だとか、主治医としてはこういうのが良いのではないかと思っているという主治医の意見を伝え、それと同時に、患者家族側の事情や思いをくみ取ることと定義されています。
患者家族も、自分がどういう状況にいるのか、どういうことを希望されているのか、どういうことを心配しているのかということを、お互いにつき合せて、共通の土俵をつくり、その中でどうやっていくのがいちばん良いのかと共に悩み考える。これこそが本来の医療の考え方だと思います。
欧米ではこの考え方は生命予後を左右しない、例えば疣贅の治療や糖尿病の治療などに用いられ、がん患者の手術など治療方針の決定には用いないとされていますが、今後はその領域にも範囲は拡大されていくと考えられます。
せっかくの自分の人生です。最期まで自分の選択で人生を過ごしていければこんなに良いことはないのではないかと思います。

地域に開かれたホスピスと在宅診療をめざして

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