プロフィール
林英次郎(Eijiro Hayashi)
医療法人財団明徳会 総合新川橋病院 心臓血管センター長、医師(循環器内科)
専門領域)心血管疾患、カテーテルインターベンション(冠動脈、末梢動脈)
- 2015年4月~総合新川橋病院 心臓血管センター長
- 2010年7月~総合新川橋病院 心臓血管センター
- 2008年4月袋井市民病院
- 2006年3月掛川市立総合病院
- 2002年4月大垣市民病院
- 2002年3月愛知医科大学医学部 卒業
はじめに
「人と人がつなぐ医療のかたち」 キラリと光る現場の医療者のご紹介と、これからの医療のあり方を皆様と共に考える、Medi Legatoのメディカルコラム。
第3回は、総合新川橋病院の林英次郎先生のご紹介です。林先生は38歳の若さで循環器内科の専門医として10年以上のキャリアを持ち、今年4月からは心臓血管センター長として、年間約500件の心臓カテーテル治療に携わっていらっしゃいます。患者さんの身体的負担を抑えながら生活の質の向上をはかる低侵襲の医療は今、日本はもちろん海外の医療者・患者さんからも必要とされています。医師をはじめ優れた医療技術者の技術と医療機関のサービスを国内外で共有することは、日本の医療のプレゼンスの向上につながります。また、患者さんとご家族の医療者・医療機関に対する、さらなる信頼の獲得にもつながります。今回は、新川橋病院心臓血管センターの多職種連携の事例として、看護主任でコーディネーターの鈴木樹子さんにもお話を伺いました。
Medi Legato 代表取締役 CEO 廣瀬園子
インタビュー
-医師を目指した理由をお聞かせください。
私の父も循環器内科医として地域の中核病院に長年勤務していました。子供の頃より医師の仕事や医師としての社会への貢献、責任感などを聞き、自然と自分も医師の道を選ぶようになりました。
医科大学へ入学し、学生時代は内科、外科、小児科、産婦人科、眼科、皮膚科などすべての診療科について勉強し、大学卒業後の臨床研修病院では、それらの科で実際に診療を行いました。
初期研修を卒業した後、私は迷わず循環器内科を専攻しました。循環器内科は、内科でありますが薬物治療だけでなく手術も行い、患者さんを初めて診る初診から検査、手術、そしてその後の外来通院と、患者さんの最初から最後までを自分が受け持つことができる、数少ない診療科です。また救急の対応も多く、例えば急性心筋梗塞を発症した患者さんが搬送された時には、直ちに緊急でカテーテル治療を行い、その結果死に直面していた患者さんがみるみる快方に向かい、数日後には社会復帰できる医療に大変魅力を感じました。
心臓に対する医療が基本ですが、それと共に、糖尿病、高血圧症、脂質異常等、心疾患のリスクファクターとなる様々な疾患に関する知見を包括的に活かすことが求められている点にも、魅力を感じました。
-カテーテル治療は一般的に、開胸手術に比べ、患者さんの体への侵襲が少ないと言われています。循環器分野における低侵襲医療の現状について、教えてください。
カテーテルとは直径1〜2mm、長さ100cmほどのパイプ状にできたしなやかな医療器具です。このカテーテルを手や足の血管から挿入し造影剤を入れながら放射線で写し出すと、心臓血管を中心に全身のあらゆる血管を調べることができます。具体的には血管の動脈硬化による狭窄、あるいは閉塞を診断することができます。
心臓カテーテル検査は、このカテーテルを用いて心臓を栄養する血管、冠動脈を精査することで、狭心症や心筋梗塞を診断することができます。麻酔はカテーテルを挿入する部位の局所麻酔のみで、患者さんへの身体負担は極めて少なく、10分ほどの検査です。狭心症あるいは心筋梗塞と診断すると、このカテーテルを用いて治療を行うことができます。
数十年前は、狭心症などに対する治療は心臓バイパス手術といった開胸手術が主流でした。しかしこのカテーテルの登場により治療は激変しました。カテーテル治療とはカテーテルを挿入して血管の狭窄部や閉塞部にバルーン(風船)を通し拡張させ、その後ステントという金属性のパイプを留置する手術です。非常に細いカテーテルでの治療ですので、メスを用いて皮膚を切開することはなく、治療時間も30分から1時間ほどで行うことができます。カテーテルを挿入する部位のみの局所麻酔ですので、患者さんはこの治療の終了後に食事や歩行することも可能です。
また近年このカテーテルを用いて、心臓血管だけでなく足の血流の悪い下肢閉塞性動脈硬化症や脳梗塞の原因になる頸動脈狭窄症に対しても治療が可能となりました。
高齢者や合併症の多い患者さんに対しての侵襲的な治療は非常にリスクが高くなります。カテーテルによる治療は、年齢は関係なく幅広く極めて低侵襲な治療です。
-心臓血管センターでは、看護師、放射線技師、臨床工学技士等、様々な医療職の方が手術をはじめとする患者さんの治療に携わっています。多職種連携が効果的に機能する為に、センター長として工夫されていることはありますか?
カテーテル検査、治療は医療技術の進歩による非常に最先端の技術であります。しかしながら医師単独で行うことはありません。看護師、放射線技師、臨床工学技士などとチームを作ることが必要不可欠であり、このチーム医療を揺るぎなく確立することが極めて重要です。そのためにはまず、治療を行う患者さんの最終ゴールを明確にし、すべてのスタッフがそのゴールを共有することです。
月に1回ないしは2回、40分から90分位の時間をかけて、各部門のスタッフが参加するミーティングを実施しています。医師、看護師(外来・病棟)放射線技師、臨床工学技士、臨床検査技師など合計10数名が参加します。
そこで、各部所から現在の問題点や改善点を話してもらい、これからのより良い患者さんへの治療環境、職場環境を議題にします。重要なことは、それに対して医師を含めすべての部署が、我々が協力できることはないかと考えること、そしてそれぞれの主体性と役割を明確化しながら方向性を共有することです。
-心臓血管センターでは、どのような医師を求めていますか?
若く、勤勉で、アグレッシブ、そして社交的な医師が多く集まってくれることを期待しています。
-患者さんへのメッセージがあれば、教えてください。
私は現在、1週間に4回の外来診察を行っています。一人一人の患者さんに申し上げますが、病気は早く見つかれば怖くないということです。自分が生まれてから今までに、病気になったことがないという方はいないでしょう。「早期発見できれば完治する可能性」が必ずあります。少しでも心配なことがあればそれを話していただき、一緒にその不安を解決していきたいと思います。適切な治療を提供すると同時に、「患者さんの生き方をどのようにサポートするか」「患者さんの人生を豊かにすること」が、私たち医師の仕事だと考えています。
心臓血管センター・コーディネーターで看護主任の鈴木樹子さんへのインタビュー
-心臓血管センターにおける鈴木さんの役割と、コーディネーターとして心がけていることについて、教えてください。
主にカテーテル検査(治療)に関する患者さんへの説明のサポートと、カテーテルスケジュールの管理等を行っています。看護師として23年従事していて、そのうち手術室経験が12年弱、整形外科・脳神経外科・眼科病棟、外来の経験を経て、心臓血管センターが開設された2010年からはカテーテルのコーディネートを担当しています。医師から患者さんへ説明がされた後、病変画像や検査データ等に目を通し、患者さんのご予定と治療に必要な時間を考慮しながら、カテーテルのスケジュールを組んでいきます。林先生のカテーテル検査は迅速で、通常は10分程、長くても20分程で終了します。カテーテル室は1部屋で、月曜日から金曜日まで、概ね1日に8件の治療(検査)が行われています。カテーテル治療には通常、医師1名、看護師2名、放射線技師2名、臨床工学技士が参加します。
ハードなスケジュールの中でも、スタッフの集中力を高め、健康維持にも役立つよう、夕方などの遅い時間帯ではなく通常のお昼の時間帯に1時間の休憩と昼食がとれるようなスケジュールを組むよう心がけています。
患者さんの年齢は40代~90代と幅広く、特に、初めてカテーテル検査(治療)を受ける方は年齢に関係なく不安を抱えている方が多くいます。カテーテル検査(治療)の前に、できるだけ患者さんご自身の不安をお話ししていただけるようなコミュニケーションを心がけ、患者さんへの説明の時には、マスクを外し、微笑みながら話しかけるようにしています。患者さんの中には、医師の診察時に聞きそびれたことや、診察後に思い出したこと、医師に聞きにくいことなどを、診察室を出たあとに話される方もおり、患者さんにお話しいただく機会をつくることは重要だと考えています。カテーテルのスケジュール管理もコーディネーターの役割ですが、カテーテル検査・治療に関連する詳細を再度ご説明することで、患者さんが抱える様々な不安や疑問が解消され、患者さんがご自分の意思で、安心して検査や治療を受けていただけるようにサポートすることが、コーディネーターの役割であると認識しています。
中央がコーディネーターの鈴木樹子さん
-新川橋心臓血管センタ―と、センター長の林先生の魅力について、教えてください。
医師、看護師、医療従事者等、多職種連携のカンファレンスが定期的に実施されていること、その時々の課題を率直に話し合い、解決できる環境が整っています。
現在、センターで行われているカテーテル検査(治療)の約6割~7割は、林先生が担当し、外来枠も可能な限り拡げていますが、林先生がセンターに入職して以来この5年間、ただの一度も、これ以上は受けられないとか疲れた等のネガティブな言葉を聞いたことはありません。患者さんで先生のファンも多く、先生が「うん、大丈夫よ」とお話しになると、患者さんが安心した表情になることも印象的です。新しいスタッフにも積極的に声をかけ、風通しのよいコミュニケーションも心がけていらっしゃるようです。心臓血管センター並びに他科との多職種連携を通じて、これからも患者さんにより良い医療を安心して受けていただけるようにしていきたいと思っています。
医療法人財団明徳会 総合新川橋病院
Webサイト:http://www.shinkawabashi.or.jp/
- 病床数)208床
- 診療科)内科、糖尿病代謝内科、外科、眼科、整形外科、形成外科、脳神経外科、リハビリテーション科、栄養科、婦人科、放射線科、麻酔科、皮膚科、歯科、歯科口腔外科、耳鼻咽喉科、乳腺外科、健康管理センター、心臓血管センター
- カテーテル治療件数(2014年実績 615件)
- 日本循環器学会 循環器専門医研修施設
- 日本心血管インターベンション治療学会 関連施設
- 日本脈管学会 研修施設
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